第4回ムジャンマ シリアの現在状況

ムジャンマとは

ムジャンマは、アラビア語で「集まる場所」を意味します。シリアのために活動する人が、シリアを思って集まる場所という願いを込めています。「シリア人の一人も置き去りにしない」シリア和平ネットワークが、設立当初から抱える想いを実現するため、2021年から開始した招待制の意見交換会です。今回は特別編として、ウクライナ危機を受けて、シリアの現状がどうなのか、最新情報を皆さんで話しました。


概要

日時:3月30日20時~22時

話題提供者:青山弘之教授(東京外国語大学)



基調講演

最近の国際情勢の中で、シリアがどのように扱われているのか。ロシアのウクライナ侵攻による、シリアへのインパクトを3点から説明する。


「ウクライナは第二のシリア」というキャッチコピーがもたらすシリア内戦史の改悪とシリアそのもののイメージ悪化への加担

昨今のウクライナに関する報道は、過度の興奮状態、集団ヒステリーの様相を呈している。プーチンの悪魔化は、シリア内戦時のアサド大統領の悪魔化をスケールアップさせたものであるように感じる。「化学兵器」「正気の沙汰ではない」「無差別攻撃」「女性や子どもへの攻撃」。これらの表現を用いた報道は、敵対的なシンパシーを高めようとしている。戦争を止めるのではなく、怒りを引き出すかのような報道の仕方、対立を煽るような情報が多い。それは、シリアへの憎しみを高めることにつながっている。歴史の教訓を引き出すという口実で、シリア内戦時の報道で使われた「アサドを悪魔化する表現」が、効果的に使われ、混乱を助長するような方向にある。プーチンの悪魔化のために、シリア情勢について都合の良い解釈をする例が見られる。


シリア紛争解決に向けた国際社会の取り組みの低下、現地情勢への影響

1. 和平プロセスについて。ジュネーブでの憲法制定委員会が、3/20-3/25の日程で行われたが、大きな進展は見られなかった。理由として、国際社会がウクライナ情勢に注力しなければならないという理由が挙げられた。しかし、それ以前に元々停滞気味であったので、ウクライナ情勢が、進展がないの理由とされるすことについては疑問。

2. ロシアとNATOが没交渉に陥っている。シリアで重大な議題と言えば、シリア政府の許可を得ないクロスボーダー支援に関わる国連安保理決議の延長ないし改正であろう。7/10に、トルコ国境経由のクロスボーダーを認可する安保理決議が、期限を迎える。通常は、安保理決議が半年毎に更新されるたびに、毎回ロシアが反対していた。前回の延長時にはクロスボーダーからクロスライン(政権地域から反体制派地域へと物資を送る)への移行を目指した決議だった。次回の延長決議の審議では、西側諸国はクロスボーダーに関してロシアからの妥協を得られないことが想定され、延長できない可能性が出てくる。

3. クロスボーダー支援ができなくなると、西側諸国は反体制派地域に物資を供給できなくなる。アメリカが、現在自国による支配地域、反体制派地域、トルコ支配地域における経済制裁を解除しようとしている。それに合わせ、西側諸国が政権地域への経済制裁も解除し、トルコ、イランから物資を入れられるようにすれば、クロスボーダー支援が不要になる。そうなった場合、シリアの状況が経済の力によって変更されることになる。これはロシアがウクライナでやっていることと同様となり、ロシアも態度を硬化させ、その矛先がシリアもしくはウクライナにむく可能性もある。周辺国でのシリア難民支援も、ますます関心が薄く、低下している。

4. ロシアのシリアにおけるコミットの低下により、イランが増長し、イスラエルにおける越境爆撃が増加する可能性があると当初言われていた。しかし、イスラエルによるイラン民兵への爆撃は、ウクライナ侵攻以来一度も行われていない。この間隙は、異例の長さである。シリア国内のISハンターがウクライナで転戦しているので、ロシアのシリアにおけるISとの戦いが滞るだろうと情報もあったが、実際はISIS残党への爆撃や、反体制派地域に爆撃をしたりしていて、影響力が低下しているとは言えない。またイランの増長について、侵攻後の翌日にバグダッドで、イラク・ロシア・イラン・シリアの軍関係者による会合があったものの、影響力低下や増長というワードは、西側諸国のプロパガンダになっている。実態としては変化はなし。

5. アメリカが自国の国益に基づいて、下記のようなプロパガンダを判断し、経済制裁解除を行うかもしれない。その場合のロシアの反発は必至だろう。


「弱者による代理戦争」の懸念・・義勇兵、傭兵など

1. 最初に外国人を呼ぼうとしたのは、ウクライナ側。それに対し、ロシアがシリア人を投入しても良いのではという話になった。

2. ロシア人の傭兵(ワーグナー社の社員)、シリア軍(第四師団、第五軍団:反体制派から作られている)の中から傭兵を募るといったニュースが出ている。シリア政府に近い民兵組織等も言及される。昨日、英外務省がシリア人傭兵がロシアによってウクライナ東部に転戦させられた旨報道している。シリア人傭兵80人が派遣されたニュースもある。ロシア軍を支援するため、市街地戦が得意なシリア人民兵を派遣させているといったものもある。シリアはロシアのデモナイゼーションのため、戦争報道の影響が出ているのでは。

3. トルコとシャーム解放機構(アルカーイダ)が協力し、兵士をイドリブからウクライナへ派遣しようとする動きがある。アラブのメディアは、両者側にも戦闘員の派遣は確認していないと報道しているが、イギリス等のメディアは派遣があったと報道している。シリア政府側と反体制派側の民兵が、第三国に派遣されることは事実としてある。懸念として、この混乱は、ロシアとウクライナの背後にあるNATOの代理戦争であり、その戦地として弱者であるウクライナがある。ウクライナによってイメージが悪化し、阻害されているシリアの弱者が戦争に行き、弱者同士が戦っているということが悲劇であると思う。こういう形でシリアは、ウクライナにネガティブな形で影響するだろう。


当日の模様はこちらからご覧いただけます。


今後のムジャンマに向けて

ムジャンマでは、「シリアに関する何か」について、話題提供者が話します。講演会に終始せず、可能な限り参加者の自由な意見交換を設定しています。参加者の方に、自身の活動への具体的なヒントを持ち帰ってほしいと考えているためです。シリアに関する知識の深化・更新、新たな連携関係の構築、アドボカシーの展開。ムジャンマが、それらの「媒介」になればと願っています。

ムジャンマへの招待者は、組織・立場に関わらず、シリアに携わる方です。ムジャンマへの参加をご希望されます方は、シリア和平ネットワーク事務局(futsuki.kouta.22u★st.kyoto-u.ac.jp:★を@に変更してください)まで、ご連絡ください。

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