質問への追加回答

国際関係

  • (講演で言及された)「もてあそび」の回避は具体的には、どういうことでしょうか?外国の駐留軍に対して、誘致という形で国民が受け止めているならば、国際社会として承認すべきということでしょうか?
現地の歴史、価値観、人々の意識を理解せずに、自分たちの価値観に基づいて、シリアで起きていることの是非を「上から目線」で判断するという意味で「もてあそび」という言葉を用いました。また、これはあくまでも私見ですが、シリアで起きていることは、その是非にかかわらず、国際社会の一部を構成していますので、国際社会が承認する、しないという問題ではないと考えています。
  • 先日ドイツの裁判所で普遍的管轄権に基づいてアサド政権の治安期間職員に「人道に対する罪」の有罪判決が下された。政権による拷問の現状は、どうなっていますか?それを止めることに必要なことは何でしょうか?
拷問は確かに心が痛む問題ですが、それがシリアの司法のもとで禁止されているかいないかという視点をまず持つこと、そしてその是非についてシリアの世論においてどのような意見があるかを網羅することが必要なことと思います。こうしたことを行わずに私たちの価値観を押しつけるかたちで、拷問をやめるべき、と言い放ってしまうことは避けたいところです。ちなみに、拷問は、すべての当事者が行っています。
  • 人道的なアジェンダの干渉を押し付けるべきではないという話でしたが、それでは人道に対する罪を放置することになるのではないでしょうか?シリアでは、R2P(保護する責任)は適用されなかったと理解していますが、国連の介入(+国際社会の人道的なアジェンダによる干渉)をどう考えますか?
人道に対する罪は、国連安保理での決議に基づいて対処する必要がありますが、それができないということは、国際社会において、シリアでの人道に対する罪についてのコンセンサスがないことを意味します。R2Pについては、正しいと見なす意見がある一方で、内政干渉(つまり正しくない)と考える意見もあります。
  • シリアへの国際人道法の適用について、干渉との関係からどう考えますか?
ご存知の通り、シリアではすべての当事者(国内外問わず)が国際人道法に抵触する行為に及んでいることを非難されています。干渉国による国際人道法への抵触にていて、それ以外の当事者のそれとともに対処するという姿勢のがあるべき姿勢だと思います。
  •  周辺国の介入により、国民国家形成に困難が生じたとすると、地政学的に今後も分断は免れないと考えますか?またアイデンティティは、複数持ちえると思うが、仲介となり得るような存在/事象は考えられますか?

理想はともかく、現実問題として、分断の脅威は今後も続きます。それにどう対処するのか、そしてその際に統合的なアイデンティティがどう提示されるは、一義的にはシリア人の問題ですが、国民国家形成の困難に対処するためのもっとも現実的なアイデンティティは、シリア人としての意識だと考えます。

戦況

  • それぞれ占領地の被害状況の差異は?
占領地において目につくのは、米主導の有志連合が各所に駐留している北・東シリア自治局支配地域、フール・キャンプでの殺人です。多くの場合は「正体不明の武装集団」の犯行です。

参考:青山弘之「シリア人権監視団は2021年2月のシリア国内での戦闘による死者が476人を記録したと発表」(シリア・アラブの春顛末記:2021年3月1日)

  • イドリブに集まっているという反体制集団に対する、政権側の扱いは?
両支配地の境界で先発的な砲撃を続けています。
  • アサド政権が反体制派やクルド人勢力の支配地域を制圧してシリア内戦で「完全勝利」を収める見込みがどのくらいありますか?
完全勝利は現時点ではきわめて困難です。
  • シリア国内では、危険ではない地域もあるのでしょうか?
あります
  • シリア人傭兵の近況については?
リビア、アゼルバイジャンに多くの傭兵がいました。両国の武力紛争が小康状態・終息したので、帰国が続いていると報告がされる一方、現地にとどまっている、別の国に転戦したとの情報もあります。

国内状況

  •  昨年末にアサド大統領がメッセージを出した。その内容と意義は?
その意義ですが、その是非はともかくとして、シリアを含む中東における宗教(とりわけイスラーム教)のあるべき地位について、欧米諸国におけるステレオタイプからの脱却を提言しているところにあります。

参考:青山弘之「シリアのアサド大統領が提唱するイスラーム教とのあるべき向き合い方とはどのようなものか?」(Yahooニュース:2020年12月16日)

  • アサド大統領には、言及の多文化共生を目指す覚悟はありますか?
彼の覚悟はともかくとして、多文化共生がシリアの良いところであり、それをめざそうという人は、政治的立場を越えて多くいます。
  • アサド大統領には、反体制派とコミュニケーションを取り、折り合いをつけようという意思はあるのか、それとも、自分に反対する人はすべて排除しようということしか考えていないのでしょうか?
問題は大統領個人の意思を越えている問題だと考えています。
  • シリアの状況は、私たちが想像するほど深刻ではないという話だが、昨年NHKBSでレバノンのシリア難民が飢えのため、臓器売買や誘拐、買春が増加している様子が紹介された。本当の状況はどうなのでしょうか?
シリア国内、そして難民・移民が暮らす国には、メディアで伝えられるような悲惨な状況があるのは言うまでもない事実です。また、インフレ、物不足も深刻です。とはいえ、それがすべてではないこと、困難はあるもののたくましく生きていることは、SNS、フェイスブックから多くのシリアの人が発信する情報から見て取ることができます。
  • シリア市民が今一番困っている事は何でしょうか?(国際社会に訴えたい事は?)

「シリア市民」とひとくくりで考えることはなかなか難しいですが、社会全体として課題になっているのは、食料の安定的な供給だということは、私の研究上のカウンターパートのシンクタンクの意見です。
  • アレッポを始め多くの街が破壊されましたが、市民生活は元に戻っているのでしょうか?
どの時点を「元」というのかにもよります。また、アレッポがアレッポ市かアレッポ県かにもよりますが、2011年以前に戻ることは現状では不可能です。アレッポ市は郊外を含めて昨年に戦闘が完全に終わりましたので、復興が進んでいますが、制裁でそのペースは緩やかです。アレッポ県は北半分をトルコに占領されています。
  • 都市の復興状況は?

政府の支配下に入った都市の一部では復興は進んでいますが、制裁、コロナ禍、レバノン経済破綻の影響で緩やかです。
  • もし内戦が終結に向かっているのであれば、国内避難民や国外避難民が元住んでいた場所に帰還する動きが出ているのでしょうか?

難民、IDPsは少しずつですが帰国しています。
  • 教育が変われば、全てが変わると思いますか?

卵が先か鶏が先かの議論になってしまいますが、教育は社会成員が作り出すものですので、社会が変わらなければ、教育は変わりませんし、教育が変わらなければ社会も変わらないと思います。
  • 現地は行ける状況なのでしょうか?
コロナ禍の現状では困難です。

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