2017年2月11日に東京にて実施されたシンポジウム「シリア危機への実効的アプローチに向けて」において、シリアからスカイプで参加したシリア世論調査研究センター(SOCPS)のRezk氏からシンポジウムに向けたメッセージです。
(*シンポジウムの報告についてはこちら)
東京で開催された「シリア人専門家と対話する中東フォーラム」へ:
ダマスカスのSOCPSより、フォーラム運営者、出席者、会場のみなさんへ
SOCPS所長 リズク・イリヤース博士
シリア世論調査研究センター(SOCPS)は、シリアでの戦争状態ゆえに出席がかないませんでしたが、フォーラム運営者、出席者、そして会場のみなさん、とりわけ幾つもの合同研究プロジェクト実施をともに実施するなかで信頼関係による結びつきを得た青山弘之教授に、挨拶申しあげます。フォーラムの目的に沿うべく、このシンポジウムのために我々が運営委員会に送付した文書のなかで述べた我々の視点をこの簡単なメッセージのなかで要約したいと思います。フォーラムの目的とは、シリア情勢を以下に理解するかを深く議論し、日本のアカデミアとNGOが、(シリア側と)関係を正常化・再構築に貢献することで、シリアの市民が受ける戦争の苦難を軽減し、彼らが被った災難に対処すること、そしてこの点に関してシリア人専門家から提案される物心面で支援する仕組みを導出することです。
我々は、今日にたるまで6年にわたり我々自身が身を置いている現下のシリア危機における現地研究者として、半世紀にわたるシリアでの事態の推移のなかで暮らしてきたシリアの市民として、そしてシリアの平和と戦争に関わる者として、上記の点に関するみなさんの疑問への答えに関する我々の視点を示したいと思います。
まず、我々は、シリアで起こった戦争、すなわち第二次大戦よりも長い間続くこの戦争が、国家インフラ、社会の調和を破壊してしまったと言いたいです。それは過去に戦争を経験したいかなる国よりも深刻なもので、国家インフラの約70%が破壊され、人口の約半分が移住、ないしは強制移住した。生活水準が低下し、人口の約90%が貧困線以下となった。この出来事を私たちはもちろん「危機」などとは呼ばない。それはシリア全土に及ぶ熾烈な戦争なのです。それは、一部の人が言うような宗教戦争、エスニック戦争、階級戦争、内戦でもなければ、「平和的反体制派」、「国家に対して武器を向けた反体制派」、「シリアという国家を根絶し、その代わりに宗教国家を樹立しようとし、いわゆる「カリフ制」の樹立をめざす中東、そして世界レベルでのテロの軍事基地となっているテロ集団」などさまざまな様相を帯びた反体制派とシリア政府との内戦でもありません。今世界で明らかになっているのは、シリア政府がこの戦争において、シリアという国家の存続を守ろうとし、同盟者とともに国家に対して武器を向けるあらゆる者たちと戦う一方で、国連安保理決議第2254号のロードマップに沿って平和的な反体制派との平和的問題解決に向けた道筋を示しているということです。国内情勢、地域情勢、国際情勢は今や、その実施に向けて動いており、シリア領内でのテロ組織の殲滅にすべての武力が向けられています。
平和的解決の道を進むため、SOCPSは(フォーラムのために)シリア危機の根源と直接の理由に関する包括的な研究を実施し、その解決とシリアだけでなく中東地域全体での持続的得和平樹立に向けた提案を行いました。この研究の主題について急ぎ説明させてください。
シリア危機の根源に関して、我々は、シリアとイスラエルの間で両国建国以来続く戦争状態が、シリア社会の政治、経済、社会構造に極めて深刻な影響をもたらしたことを解明しました。現下の戦争状態はイスラエルがゴラン高原から撤退し、交渉を通じて両国が完全な和平を樹立する以外に出口はありません。
危機の根源に関わる第2の問題は、タクフィール・ワッハーブ主義テロ潮流が存在し、シリア社会の調和を乱し、ほぼ半世紀にわたり、貧困層に温床を得てきたということです。この問題に対する明確な解決策とは、シリアに民主的世俗国家を樹立し、すべての市民が等しく権利と義務を享受し、「宗教は神のもの、祖国はみなのもの」というスローガンのもと、政教分離を実現することです。これがこの戦争におけるもっとも主要な教訓です。
危機の根源に関わる第3の問題は、シリア社会のエスニック・宗教・文化的多様性に国家機関が充分対処できなかったことにあります。この問題の解決さくは、シリア人が合意するようなかたちで、世俗国家の基礎のうえに、広域地方自治、ないしは連邦制といった分権制を樹立することにあります。
危機の根源に関わる第4の問題は、1960年代以降のバアス党による国家の独占です。この問題は2012年に公布された現行憲法によって解決されました。現行憲法は、ロシアが提案した新憲法案などを踏まえて、今後合意されるであろう新憲法として発展させられていくことになるでしょう。
危機の根源に関わる第5の問題は支配体制が経済的アイデンティティを喪失したことによります。経済的なアイデンティティは、政府に参加するすべての政党を構成メンバーとするかたちで、社会経済開発計画に向けた経済評議会を、府が設置することで合意されていくことでしょう。
このフォーラムの優れた点は、その運営を自発的(ボランティア)に行った日本のアカデミア、NGOのみなさんが、シリア国民を現下の危機から脱却させるために支援し、シリア国民に日本が第二次大戦後に歩んだのと同じ(復興の)道を辿ってもらいたいと願う文明的で人道的な日本国民の願望を真に代表しようとされていることです。また、日本人が短期間で復興を成し遂げ、文明的で先進的な国の前衛となった奇跡は全世界が知っています。シリア国民は今、世界史において「人類文明のゆりかご」として知られているシリアの歴史を改めて着想を得つつ、復興の奇跡を実現した友人である日本国民に倣わんとしています。
日本のアカデミアとNGOによる支援の方法について、経済社会問題を専門とするスタッフが意見を交わしました。最後となりますが、国際テロリズムと戦う民主的世俗国家シリアを建設するため、我々とに共同研究を行うための支援を賜りますよう日本の友人、研究者にお願いしたく存じます。我々は青山弘之教授をはじめとする東京外国語大学が我々と連絡をとり続けてくれることに感謝します。
ご静聴、ありがとうございました。
原文はこちら。
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