第3回ムジャンマ シリア経済

ムジャンマとは

ムジャンマは、アラビア語で「集まる場所」を意味します。シリアのために活動する人が、シリアを思って集まる場所という願いを込めています。「シリア人の一人も置き去りにしない」シリア和平ネットワークが、設立当初から抱える想いを実現するため、2021年から開始した招待制の意見交換会です。参加者の方が、自由に発言することができるよう、チャタムハウスルールを採用しています。


概要

日 時:2022年2月23日(水)@オンライン


話題提供者:シリア経済専門家(ロンドン・スクールオブエコノミクス研究員)



基調講演

シリア経済の悪化

2011年以来の紛争による経済損失は6500億ドルと推定され、これは2010年当時のシリアのGDPの11倍にも及ぶ。今からシリア経済が、年間平均10%で成長したとしても、2010年の経済水準まで復帰するためには23年もの年月を要する。経済システムの根本的な破壊は、シリア国内における脆弱な中小企業、零細な需要市場、シリアポンドの暴落、ビジネスインフラの欠如に反映されている。


海外経済への依存

2021年、輸入量は、輸出量の5倍の見込み。年間の海外送金受領額が15億ドル、国外からの人道支援総額が15億ドルに推定され、シリア政府における歳入の60%に相当する額が、外貨に依存する計算になる。政府による歳入確保のため、国内で麻薬売買等の非合法経済が発達している。


紛争の社会的影響

失業率は、50%の水準で高止まりするなかで、賃金の高い非合法の経済活動(麻薬売買、人身売買等)が、労働市場を席捲している。この活動に従事する者が、賃金は下がっても国家全体の経済再建に繋がる業種に従事するよう、誘導する必要がある。シリアには、適切な医療インフラがなく、新型コロナウイルスの影響も正確には把握できていない状況。

紛争は、教育や人的資源開発にも悪影響を及ぼしている。多くの児童が、初等教育の機会を手にしていない。また支配勢力が、それぞれに異なる教育カリキュラムを採用し、社会的分断の火種となっている。


対シリア経済制裁

1979年以降、シリア経済は制裁の対象であるが、2011年以降は制裁の質が変化した。紛争勃発当初は、シリア政府の行動を変えることを目的に、比較的少数の政府高官を対象としていた。数か月後に展開された制裁では、対象範囲が全政府系組織に拡大。更に2014年以降は、体制変更を目的として、シリア国外のロシア・イラン系組織も対象に拡大された。

経済制裁に対して、シリア政府が縁故企業や軍事関係者への保護を強めることで応じ、結果的な悪影響を市民が被っている。国際社会による包括的・参加型開発を基調とした、より広範な戦略の中に、制裁は位置づけられるべきである。また海外の市民社会組織は、シリア政府の影響を被りにくい、市民社会発事業(civil social initiative)を直接支援する代替経路を開拓すべき。中小企業を支援すると共に、人道支援から開発・ガバナンス支援に移行することが重要。


シリア和平ネットワークメンバーからのコメント

23年間分の経済成長に相当する経済損失、6割を海外からの送金と経済援助に依存する国家予算、本来の目的であるレジームチェンジを果たせない経済制裁に直撃される国民生活等々。今回の勉強会で炙り出されたネガティブな現実はウクライナ侵攻に伴うロシアへの経済制裁により、一層悪化することが想像できる。

アサド政権の延命に繋がる公式な銀行システムを通じた支援ではなく、パラレルな金融システムにより、シリアの市民社会組織や中小企業を直接支援せよとのMehchy氏のアドバイスは正鵠を得たものだ。しかしながら、2010年GDPの11倍にも上る経済損失からシリアを回復させるだけの資金調達はパラレルな金融システムでは先ず不可能である。

既に9割が貧困状態にあるシリア国民へのさらなる打撃を防ぐために、西側諸国は直接シリア政府の経済運営担当者と対話し、経済運営への技術支援を含む協力の可能性について、シリアへの経済制裁のあるべき姿も絡ませて交渉すべきではないだろうか。


今後のムジャンマに向けて

ムジャンマでは、「シリアに関する何か」について、話題提供者が話します。講演会に終始せず、可能な限り参加者の自由な意見交換を設定しています。参加者の方に、自身の活動への具体的なヒントを持ち帰ってほしいと考えているためです。シリアに関する知識の深化・更新、新たな連携関係の構築、アドボカシーの展開。ムジャンマが、それらの「媒介」になればと願っています。

ムジャンマへの招待者は、組織・立場に関わらず、シリアに携わる方です。ムジャンマへの参加をご希望されます方は、シリア和平ネットワーク事務局(futsuki.kouta.22u★st.kyoto-u.ac.jp:★を@に変更してください)まで、ご連絡ください。

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