シリア和平ネットワークは、持続可能なシリアの平和を創れるのは当事者であるシリア人自身であり、国際社会はそれぞれの国益のためではなく、シリア人同士が自由に自分達の未来について話し合えるようにサポートすべきである、と訴えてきました。
そのようなシリア人の当事者性を最優先にした政策提言活動をする上で、今何が求められるか探るため、シリア和平ネットワークの運営委員グループの一つ、『シリア支援団体サダーカ』のアドボカシーグループリーダー・小泉尊聖が7月16日から24日までベイルートを訪問し、シリア政策調査センター(SCPR)などのシリア人グループと協議をおこなってきました。
軍人でも政治家でもなく、被害者としてでしかニュースに表れてこないシリアの人々が、シリアの平和に向けて、どのような行動を起しているのか、そして、そのような動きを世界はどう捉えているのか、シリアの現場に近いベイルートで会談を持ちました。
ベイルートの街並み
シンクタンク、研究者、NGO、外交官、国連関係者等と話し合う中で見えてきたのは、シリア人同士が表面的な差異を超えて繋がろうとする姿と、そうした芽を育てようとする動きでした。ここでは、その中の彼/彼女らの声の一部を紹介します。;
『市民社会に対する西側諸国が支援のバランスを欠くと、社会の更なる分断につながるリスクがあることに注意をしなければならない。現在シリアの市民社会グループは、シリア国内外の市民団体のネットワーキングに取り組んでおり、市民社会のオンライン・プラットフォームを立ち上げた。市民社会にはシリアという国が分断・細分化されていくのを防ぎ、皆を繋いでいく、云わば、シリア社会の接着剤のような役割が求められている。軍人同士ですら何らかの対話を行っている。今、シリア市民の一人ひとりこそが相互に話合っていかなければならない。そこでシリア国内でのネットワークを進め、その輪を国際NGOにまで広げている。』
(NGO代表者の言葉)
『現在、政権支配地域、クルド地域、反対派支配地域、IS支配地域にまたがるネットワークが形成されつつあり、数百人のスタッフがロープロファイル(安全上目立たないように)で活動している。各地域での都市住民と農村地域住民の共生、元々いた住民と後から移ってきた住民間の助け合いなど、草の根レベルの活動を、包囲地域や、ダマスカス、ホムス、ハッサケ、デール・ゾール、アレッポ等で行ってきた。各都市間の協力にも取組んでいる。如何にシリアにSocial cohesion(社会的結束)を生み出すか、シリアに元々あったSocial capital(社会関係資本)を壊さずに将来を築いていくかが肝要。外からの復興支援ではなく、元々の地域に存在する住民の様々なアセット(関係性)をいかに有効に活用していくか。住民を分断しないような支援をおこなうためには、先ずシリア人を理解することが必要だ。』
(援助機関アドバイザーの言葉)
取材ノートから
『(社会の再生には)様々な人々との間のネットワークが重要だ。現在、シリアのアサド政権と反体制双方の支配地域を始め、レバノン、トルコ、英、米、独等、世界中から有識者、元外交官、1980年代からの活動家、若者グループ代表、難民グループ代表等が、シリアの将来に向けた議論に参加している。勿論、これを以てシリアの市民社会を代表するとは云えない。しかし、あくまでも、シリアにおける開発の在り方について新しいパラダイムを模索するネットワークは存在する。』
(シリア人経済学者)
『政権支配地域およびISを除く反体制派支配地域で活動しているプロジェクト・ファシリテーターたちのネットワークが構築されている。子供や若者のコミュニティでの平和構築や紛争解決などに携わる様々な草の根の活動が実施されている。』
(NGO代表者)
こうしたシリア人によるネットワーキングの試み以外にも、ジュネーブ和平交渉にあたる国連シリア特使とスイスの援助機関が、同交渉においてシリア市民社会の意見が反映されるよう、ジュネーブの国連本部内に市民社会サポートルーム(Civil Society Support Room , CSSR http://www.swisspeace.ch/regions/syria.html )が設立されたとの報告もありました。
さらに、グローバルな市民社会の連帯の試みとして、ベルリンを拠点とするWe exist! (https://citizensforsyria.org/we-exist-alliance-lead/) という活動が開始しています。
シリア和平ネットワークは、今後もシリア内外の動きに注目しながら、シリアの当事者が自分の国の平和構築に主体的に携われるような環境醸成に向けて、日本におけるアドボカシー活動に取り組んでいきます。
* シリア政策調査センター(SCPR)の関連記事はこちら。
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